デンマークの新エネルギー法 energiforlig i Danmark

先週、デンマークでは、10年ぶりとなる新エネルギー法が賛成多数で可決されました。

2025年までに45%、2050年までに100%、国の全エネルギーを再生可能エネルギーでまかなうと決定。

そして、2050年にデンマークが化石燃料フリーの国になるためのロードマップが示されました。

各自治体や組織でも一気に環境、再生可能エネルギーへの取り組みがさらに活発化しています。

国民は、環境税の負担をすることで、この目標のためにコミットをしているということでもあります。また、税金が目に見える形で生かされ、政府が国民の代表として機能しているという土台があるからでもあります。

日本は原発なしでは成り立たない、という意見も今もありますが、成り立たないと断言することは、違う形の未来の可能性を完全に否定することで、進歩はありません。もちろん、日本とデンマークの現状を安易に比較するべきではありませんし、風土や政治体制、送電網、色々なことが異なります。でも、少なくとも、再生可能エネルギーの大規模な普及は、科学技術的には不可能ではなく、あとは政策や受け皿の整備の問題だと、この国は証明していると思うのです。

デンマークでは、再生可能エネルギーは、雇用も生み出す、大きな未来ある産業として、着実に育っています。また、再生可能エネルギーの普及で、経済にマイナスの影響を及ぼしてはおらず、かえってプラスの影響を及ぼしていることは、デンマークの経済成長率からみても、証明されています。たとえば、法人と家庭では、法人のほうがより安価で電気を使用できること、また、大手の法人には、節電の目標が設定され、より効率的に節電できるか定期的に確認するなどの工夫がなされています。

デザインの国として有名な北欧デンマークですが、優れたデザインの背景には、長く使えて受け継いでいけるものを作り出そうという考えがあるように感じます。
すこし飛躍するかもしれませんが、デザインだけでなく、エネルギーや政治にも、より未来をみすえて、長い目でよりよい社会を作っていくこと、そのために、皆で協力し負担も分け合うことを考えているように、この国に住んでみて感じました。


下記、日経産業新聞 2012年3月13日付掲載記事を転載します。

日本エネ転換、国が目標を――デンマーク「風力発電の島」市議に聞く

デンマーク南部のロラン島は、風力など再生可能エネルギーで全電力を賄うことで世界から注目されている。元は原子力発電所の建設候補地だった。このエネルギー転換を先導し、同国で「ミスター・エネルギー」と呼ばれるロラン市のレオ・クリステンセン市議会議員がこのほど来日した。同氏に、日本の環境・エネルギー政策の課題などについて聞いた。

――再生エネルギーに転換できた背景は。
「石油ショックの影響で、デンマークでは原発導入機運が高まった。ロラン島が候補地となった際に市民が立ち上がり、政府に『3年間考える期間がほしい』と願い出た。電力会社は早く導入したがったが、政府は『エネルギーを考えるのは市民』という方針のもとで市民の訴えを受け入れた」
「原発の長所、短所を徹底的に討議したうえで導入反対を決め、1985年には政府が原発を使わないと正式に決定した。これにより再生エネルギーへの転換が一気に進んだ」

――電力料金の上昇など影響はないか。
「風力で発電した電気を買い取る制度が導入されており、家庭用の電力料金は日本より約5割高い。だが、一般家庭でも風力発電機を導入して年間数百万円も売電収入を得ている人もいる。市民は節電意識も強く、困ってはいない」

――東日本大震災で日本はエネルギー戦略の見直しを迫られている
「デンマークの場合、(85年に)原発を導入しないと決めてから(再生エネルギーへの転換までに)時間があった。日本は待ったなしだが、国がどの方向に進むかを決めていないのが最大の問題だ。復興に向かって進むには明確な目標がいる。政府が失敗を恐れているようにみえる」
「日本で被災者と会って、再生エネルギーへの転換を進めたいと願う人が多いのに驚いた。だが、残念ながらその思いを国や自治体が吸い上げる仕組みが整っていない」

――日本の再生エネルギー普及に何が必要か。
「(電力会社が個々に保有し)ぶつ切り状態になっている送電網をつなげて、誰もが共通に使えるインフラにすることが急務だろう。デンマークでは国が送電網を一括管理し、ロラン島の風力発電の電気をコペンハーゲンに送っている」

――ロラン島の課題は。
「エネルギーの地産地消だ。政府は20年までに電力需要の半分を風力で賄う計画で、島に新たに11基の大型風力発電機を建設する。島内で今でも余っている電気がさらに増える。他の地域に送電するにはケーブルの増強などが必要になる。これは無駄だ」
「逆にロラン島に電力を多く使う企業や工場を集めれば、雇用も増え学校や病院などの社会インフラも整う。デンマークでも過疎化は地方自治体の悩みの種だ。エネルギーの地産地消は都会と田舎の均衡という課題の解にもなり得る」 (聞き手は松井健)


ロラン島: デンマーク南部の人口約7万人の島で、年間を通じて風に恵まれている。600基以上の風力発電機が稼働し、島内で必要な電力量の5倍の電気を発電し、コペンハーゲンなどに送電している。1970年代、原子力発電所の候補地だったが、住民の反対で政府が計画を撤回した。風力発電機世界大手のヴェスタスの誘致に成功したことや、91年に世界初の洋上風力発電所を開設したことなどで雇用を創出し、一時20%を超えた失業率は4%前後に改善した。

1 comment: